2025年の「新語・流行語大賞」候補30語が発表され、今年も残りわずかであることを実感させられます。ノミネートされた言葉を見ると、SNSを起点に爆発的に広まった「エッホエッホ」から、「物価高」「古古古米」といった私たちの生活に直結する切実な問題まで、実に多岐にわたります。
この記事では、ノミネートされた30の言葉を単に紹介するだけでなく、その言葉が生まれた背景や社会に与えた影響を深掘りし、2025年という時代がどのような年だったのかを多角的に読み解いていきます。
この記事のポイント
- 2025年を象徴する30語の二つの潮流
- SNSが爆発的なトレンドを生む仕組み
- 「物価高」から見える生活に根差した社会課題
- 「オールドメディア」批判に潜む情報社会の変容
- スポーツ関連語がノミネートされなかった背景
2025年を彩った30の言葉たち、社会情勢からネット文化まで

2025年の新語・流行語大賞にノミネートされた30語は、現代社会を映し出す二つの大きな潮流を明確に示しています。一つは、SNS、特にショート動画プラットフォームを起点としたネット文化のさらなる浸透。そしてもう一つは、物価高や多様化する働き方など、人々の実生活に根差した社会課題への関心の高まりです。
今年のノミネート語は、その多くがデジタル空間で生まれ、育ちました。一方で、経済的な不安や労働環境の変化、自然との向き合い方といった、非常に現実的で切実なテーマも言葉として切り取られています。この両極端ともいえる言葉の並びは、バーチャルとリアルが複雑に絡み合いながら進んでいく現代そのものを象徴しているといえるでしょう。
SNSが火付け役となった新たなトレンド
今年の流行語を語る上で、TikTokをはじめとするSNSの存在は欠かせません。メンフクロウのヒナの動画から生まれた「エッホエッホ」や、音楽ユニットM!LKの楽曲から広まった「ビジュイイじゃん」、テレビ番組での一言が切り抜かれ拡散した「長袖をください」などは、その典型例です。
これらの言葉は、元の文脈を離れ、キャッチーな響きやフレーズが独立して人気を博しました。誰もが手軽に動画を編集・投稿できる環境が、流行の生まれるスピードと規模を加速させているのです。これは、一部のメディアや著名人だけでなく、誰もが流行の火付け役になり得る時代であることを示しています。
今年のノミネート語の中でも、特にSNSを起点としたトレンドを象徴する言葉には以下のようなものがあります。
- エッホエッホ:メンフクロウのヒナの動画から拡散
- ビジュイイじゃん:M!LKの楽曲がTikTokで流行
- 長袖をください:テレビ番組内での一言がネットで話題に
- チョコミントよりもあ・な・た:声優ユニットの楽曲からTikTokで拡散
生活に根差した言葉が映し出す社会課題
明るいネットトレンドが注目される一方で、私たちの暮らしに直結する言葉も数多くノミネートされました。数年来続く「物価高」や、米不足の社会不安から注目された「古古古米」は、多くの家庭が直面する経済的な厳しさを表しています。
また、「フリーランス保護法」や「企業風土」といった言葉は、働き方の多様化とそれに伴う新たな課題、そして組織のあり方が厳しく問われている現状を浮き彫りにしました。「緊急銃猟/クマ被害」という言葉からは、人間と野生動物の境界線が曖昧になり、共存の難しさが増しているという、古くて新しい問題の深刻化が見て取れます。
人々の暮らしに直結する、社会的な課題を反映した言葉も多く選ばれました。
- 物価高:数年来続く生活必需品の値上がり
- 古古古米:米不足の社会不安から注目された備蓄米
- フリーランス保護法:多様化する働き方と新たな法的保護
- 企業風土:組織のあり方やジェンダー配慮意識への問題提起
- 緊急銃猟/クマ被害:深刻化する人間と野生動物の共存問題
言葉の流行から見えてくる現代社会の光と影

ノミネートされた30語を詳しく見ていくと、技術革新や価値観の多様化がもたらす「光」の側面と、それに伴って生じる新たな依存や社会の分断といった「影」の側面が、コインの裏表のように存在していることがわかります。これらは、複雑化する現代社会で人々が何を求め、何を憂いているのかを映し出す鏡といえるでしょう。
例えば、個人の「好き」を追求する「ぬい活」や心身の健康への投資を示す「リカバリーウェア」「薬膳」は、日々の生活を豊かにしようとするポジティブな動きです。しかしその一方で、ネット社会の危うさを示す「オンカジ」やデマの拡散問題となった「7月5日」など、見過ごすことのできない社会の歪みもまた、言葉として立ち現れています。
オールドメディア批判に潜む情報社会の変容
「オールドメディア」という言葉のノミネートは、現代の情報環境の変化を象徴する出来事です。新聞やテレビといった既存メディアが「偏っている」「不要なもの」と見なされる風潮は、情報収集の主戦場がSNSや動画プラットフォームへ完全に移行したことを示唆しています。
人々は、アルゴリズムによって最適化された情報に囲まれることで、自らの考えを補強してくれる情報ばかりに触れる「フィルターバブル」に陥りやすくなります。短時間で理解できるコンテンツがもてはやされる一方で、複雑な事象を多角的に捉える機会が失われつつあるのかもしれません。情報をいかに見極め、選択していくかというメディアリテラシーの重要性が、これまで以上に問われています。
不安な時代に人々が求める癒やしと自己投資
世界情勢の不安定化や物価高といった社会的な不安を背景に、人々が身近なところで「癒やし」や「自分への投資」を求める傾向が強まっています。「ぬい活」や香港発のキャラクター「ラブブ」の人気は、日々の生活に彩りや精神的な充足感をもたらしてくれる存在への渇望の表れでしょう。
また、健康志向の高まりを反映した「薬膳」や「リカバリーウェア」の流行は、自身の心身を大切にしようという自己投資への関心の高まりを示しています。先行きが見えにくい時代だからこそ、人々はささやかでも確かな幸せや、自分自身の価値を高めることに関心を寄せていると考えられます。
国際大会の谷間が映すもの スポーツ関連語不在の年

今年のノミネート語30を見て、顕著な特徴が一つあります。それは、スポーツに関連する言葉が一つも含まれていないことです。過去を振り返れば、オリンピックやサッカーワールドカップが開催された年には、選手の名前や象徴的なプレーが必ずと言っていいほどノミネートされてきました。
2025年は、これらの世界的なメガイベントが存在しない「谷間の年」にあたります。東京で世界陸上が開催されはしたものの、社会現象を巻き起こすほどの国民的な熱狂には至りませんでした。人々の注目を一点に集めるような大きなスポーツイベントがなかったことが、今回の結果に直結した最大の要因であることは間違いないでしょう。
私見ですが、これは単にイベントがなかったという偶然だけでなく、人々の関心がより多様化・細分化している現代の空気感を反映しているのかもしれません。国中が同じスポーツイベントに熱狂する時代から、それぞれが自分の「推し」や趣味、生活に密着した事柄を深掘りする時代へ。その静かな変化の一端が、今年のノミネート語の顔ぶれに表れているようにも感じられます。
来年2026年は、この静けさから一転して再びスポーツが盛り上がる年になりそうです。3月には野球のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、6月にはサッカーのワールドカップが開催されます。再び日本中が熱狂に包まれ、新たなスポーツ関連の流行語が生まれることを期待したいところです。